視覚優位だから視覚支援だけで良い?
発達障害のこども達の中には視覚優位と言われる子たちが比較的に多いです。
こういった子たちは耳から入る情報、特に言葉に対しての反応が鈍いので、日常生活や集団生活をスムーズにこなすにはスケジュール表や写真、イラストといった視覚的なヒントが欠かせません。
では、どうして視覚優位なのでしょうか?
実は人間というのは、生まれた当初は基本的に他の動物と同じで視覚優位なのです。それが2歳くらいまでに聴覚優位に変化して言葉(音声言語)の世界を意識するようになります。
つまり、大きくなっても視覚優位な子たちというのは、この切り替えが上手く出来なかった、あるいは一度は切り替わったけれど、言葉の世界に上手く入れず、再び視覚優位の世界に戻ってしまった子たちなのです。
私たちの社会は言葉(音声言語)が前提で出来上がっている世界です。対人関係は絶えず言葉のやり取りをすることで維持されています。
音声言語以外でも聴覚障害者が使う手話(サイン)がありますが、あくまで特定のコミュニティ内でしか通じないローカルなものです。
言葉(音声言語)が分からない、もしくは音声言語に対する反応が鈍い子どもは、その分、社会参加を制限されることになります。
視覚優位の子どもでも常に合理的配慮を受けられれば良いのですが、社会では必ずしも配慮が得られる訳ではありません。以前、マクドナルドは自閉症の従業員向けに視覚的な手がかりなどの配慮をしていましたが、企業界全体を見たときにどのくらいの企業がそこまでしてくれるでしょうか?
マクドナルドでさえ全ての店舗で配慮がなされているとは思えません。
それでも発達障害児・者が学生の間は、保護者や本人が合理的配慮の必要性を学校に対してきちんと主張することで必要な支援が得られる可能性がありますが、クラスメイトとの人間関係でこれを要求して叶えられるかどうかは集団の性質次第、つまりは運次第です。
そう考えると、(聴覚や発声機能といった身体機能的な限界が無いことが前提ですが)本人にとって苦手なことをやらされてしんどいとしても、出来るだけ音声言語で理解し、表現する訓練をした方がこどもの選択肢を広げることに繋がるのではないでしょうか。
ただし、10歳を過ぎると本人の意思が強くなり、訓練を拒否する場合があるので、出来れば低学年、本音を言えば就学前から臨床経験のある専門家による本格的な訓練を開始することが望ましいです。
10歳過ぎでは手遅れかと言われれば、必ずしもそうとは言えませんが、家族が自分たちの生活を子どもの訓練中心に変える覚悟が必要になる上に、訓練をやりたくない子どもとの関係を悪くする可能性もあるので、子どもと自分たちにとって最良の目標が何かをよくよく検討して、他の選択肢についても考えた方が良いでしょう。